PMBOKやCompTIA Project+を知っておこう
1. なぜPMBOKやCompTIA Project+を紹介するのか
システム構築、Webサイト制作、業務システム導入、クラウド移行、社内チャット導入、予約システム導入などは、すべてプロジェクトです。
プロジェクトとは、ざっくり言えば、
目的があり、期限があり、関係者がいて、予算があり、成果物がある仕事
のことです。
中小企業では、専任の情報システム担当者がいないまま、社長、総務、現場責任者、外部業者でシステム導入を進めることがよくあります。
そのときに、最低限のプロジェクト管理の知識がないと、
- 要件がまとまらない
- 見積の比較ができない
- 業者の説明を判断できない
- 追加費用が増える
- 納期が遅れる
- 完成の基準が分からない
- 保守や解約で揉める
という問題が起きます。
そこで、全部を深く学ぶ必要はありませんが、PMBOKやCompTIA Project+の考え方を知っておくと、発注側としてかなり強くなります。
2. PMBOKとは何か
PMBOKは、Project Management Body of Knowledge の略です。
日本語では、プロジェクトマネジメント知識体系と訳されます。
PMBOKは、PMI、Project Management Institute がまとめているプロジェクト管理の標準的な知識体系です。PMI公式では、PMBOK Guide第8版とThe Standard for Project Managementが、価値提供、適応、説明責任、ガバナンス、スコープ、スケジュール、財務、ステークホルダー、リソース、リスクなどを扱うものとして紹介されています。
簡単に言えば、PMBOKは、プロジェクトを失敗させないために、何を管理すべきかを整理した世界標準の考え方です。
3. PMBOKを中小企業向けに言い換える
PMBOKというと難しく聞こえますが、現場向けに言い換えるとこうです。
| PMBOK的な考え方 | 中小企業向けの言い方 |
|---|---|
| スコープ管理 | どこまでやるか、どこからはやらないか |
| スケジュール管理 | いつまでに、どの順番で進めるか |
| コスト管理 | 初期費用、月額費用、追加費用を管理する |
| 品質管理 | 何をもって完成とするか |
| リスク管理 | 失敗しそうな点を先に洗い出す |
| 調達管理 | どの業者に、何を、いくらで頼むか |
| ステークホルダー管理 | 誰が使い、誰が決め、誰が困るのか |
| コミュニケーション管理 | 議事録、承認、変更、課題を記録する |
| 統合管理 | 全体を見て、判断をまとめる |
つまりPMBOKは、
業者に任せる前に、発注側が整理すべきことの地図
です。
4. PMBOKを知っていると何が良いのか
情報担当がいない会社でも、PMBOKの考え方を少し知っているだけで、かなり変わります。
例1:見積の見方が変わる
PMBOKを知らないと、
A社が一番安いからA社でいいかな
となりがちです。
PMBOK的に見ると、
- スコープは同じか
- 成果物は同じか
- テストは含まれているか
- 保守は含まれているか
- リスク対応は入っているか
- 変更管理は決まっているか
を確認します。
つまり、金額ではなく前提条件を見るようになります。
例2:追加費用で揉めにくくなる
PMBOKを知らないと、
これくらい追加でやってくれると思っていた
となります。
PMBOK的に見ると、
- 当初スコープに含まれていたか
- 変更管理表に記録したか
- 費用影響を確認したか
- 納期影響を確認したか
- 誰が承認したか
を確認します。
つまり、変更は悪ではないが、無管理な変更は危険だと分かります。
例3:検収の基準が明確になる
PMBOKを知らないと、
なんとなく動いているからOK
となりがちです。
PMBOK的に見ると、
- Must要件は満たしているか
- テスト結果はあるか
- 受入テストは完了したか
- マニュアルはあるか
- 保守連絡先はあるか
- バックアップや復旧手順はあるか
を確認します。
つまり、完成の判断を感覚ではなく条件で行うようになります。
5. CompTIA Project+とは何か
CompTIA Project+は、CompTIAが提供しているプロジェクト管理の認定資格です。
CompTIAというと、A+、Network+、Security+などIT系資格のイメージが強いですが、Project+はプロジェクト管理に特化した資格です。
CompTIA公式では、Project+ V5、試験コードPK0-005について、プロジェクト管理概念、プロジェクトライフサイクル、ツールとドキュメント、ITとガバナンスの基礎を扱う資格として紹介されています。試験は最大90問、選択式とパフォーマンスベース問題、試験時間90分、合格点710、言語は英語・日本語・タイ語、推奨経験はテック環境でのプロジェクト管理経験6〜12か月相当とされています。
6. CompTIA Project+の出題領域
CompTIA Project+ V5、PK0-005の公式ページでは、試験領域は次の4つに整理されています。
| 領域 | 比率 | 内容 |
|---|---|---|
| Project management concepts | 33% | プロジェクト管理の基本概念 |
| Project life cycle phases | 30% | 開始、計画、実行、監視、終結など |
| Tools and documentation | 19% | WBS、ガントチャート、課題管理、文書 |
| Basics of IT and governance | 18% | IT、セキュリティ、ガバナンスの基本 |
中小企業の発注者にとって特に役に立つのは、
- プロジェクトのフェーズ
- 役割と責任
- コスト管理
- リスク管理
- コミュニケーション
- 変更管理
- ドキュメント管理
- ITガバナンス
です。
これは、まさにシステム構築で必要になる知識です。
7. PMBOKとCompTIA Project+の違い
PMBOKとCompTIA Project+は、どちらもプロジェクト管理に関係しますが、位置づけが違います。
| 項目 | PMBOK | CompTIA Project+ |
|---|---|---|
| 位置づけ | プロジェクト管理の知識体系・標準 | プロジェクト管理の認定資格 |
| 提供元 | PMI | CompTIA |
| 向いている人 | PM、管理職、発注責任者、PMO | IT寄りの現場担当、若手PM、発注側担当者 |
| 内容 | 幅広く体系的 | 実務基礎・ITプロジェクト寄り |
| 難易度感 | 広く深い | 比較的入りやすい |
| 使い方 | 考え方・標準として活用 | 学習目標・基礎固めとして活用 |
| 中小企業での活用 | 発注・統制・契約・リスク管理 | 現場担当者の基礎教育 |
ざっくり言うと、
PMBOKは地図、CompTIA Project+は実務の基礎トレーニングです。
8. PMPとの違いも知っておく
PMBOKと一緒に出てくる資格に、PMPがあります。
PMPは、PMIが提供するプロジェクトマネジメントの代表的な認定資格です。
ここで混乱しやすいので整理します。
| 名称 | 種類 | 説明 |
|---|---|---|
| PMBOK | 知識体系・ガイド | プロジェクト管理の考え方や標準 |
| PMI | 団体 | PMBOKやPMPを提供する団体 |
| PMP | 資格 | プロジェクトマネージャー向けの認定資格 |
| CompTIA Project+ | 資格 | IT寄りのプロジェクト管理基礎資格 |
つまり、
- PMBOKは本・標準・考え方
- PMPは資格
- CompTIA Project+も資格
- PMIとCompTIAはそれぞれ別団体
です。
9. 情報担当がいない会社は、どこまで学べばよいか
中小企業の経営者や総務担当者、現場責任者が、PMBOKやCompTIA Project+を全部覚える必要はありません。
資格取得まで目指さなくても大丈夫です。
ただし、次の言葉は知っておくと非常に役立ちます。
最低限覚えるべき用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 要件定義 | 何を実現するかを言語化すること |
| スコープ | 今回やる範囲、やらない範囲 |
| WBS | 作業を分解した表 |
| マイルストーン | 重要な節目 |
| リスク | 起きたら困ること |
| 課題 | すでに起きている問題 |
| 変更管理 | 途中変更を記録・承認する仕組み |
| ステークホルダー | 関係者 |
| RFI | 情報提供依頼 |
| RFP | 提案依頼 |
| RFQ | 見積依頼 |
| SOW | 作業範囲記述書 |
| SLA | サービス水準合意 |
| 受入テスト | 発注側が実業務目線で確認するテスト |
| 検収 | 納品物が条件を満たすか確認すること |
これだけ知っているだけでも、業者との会話がかなり変わります。
10. 講義での位置づけ
この講義では、PMBOKやCompTIA Project+を資格試験対策として扱うのではありません。
目的は、次の通りです。
情報担当がいない会社でも、システム構築を丸投げせず、発注側として最低限の判断ができるようになること。
そのため、この講義ではPMBOKやCompTIA Project+を次のように使います。
| 講義テーマ | PMBOK・Project+との関係 |
|---|---|
| 要件定義 | スコープ、品質、ステークホルダー管理 |
| 三社見積もり | 調達管理、コスト管理 |
| RFI/RFP/RFQ | 調達プロセス |
| WBS | スケジュール管理、作業分解 |
| リスク管理 | リスクの洗い出しと対応 |
| 変更管理 | 追加要望、費用、納期影響の管理 |
| 検収 | 品質管理、受入テスト |
| 保守運用 | SLA、運用要件、ガバナンス |
つまり、PMBOKやCompTIA Project+は、現場で使うための道具箱として紹介します。
11. 中小企業向けの学び方
経営者・役員
経営者は、細かいWBSを全部作る必要はありません。
見るべきポイントは、
- 目的
- 予算
- スコープ
- リスク
- 契約条件
- 検収条件
- 保守費用
- 解約条件
です。
経営者は、最終的に会社が損をしないかを見ます。
総務・管理部門
総務や管理部門は、社内調整と記録が重要です。
見るべきポイントは、
- 関係者の整理
- 議事録
- 承認記録
- 見積比較表
- 契約書類
- アカウント管理
- 保守窓口
です。
総務・管理部門は、プロジェクトの証拠を残す役割を持ちます。
現場責任者
現場責任者は、実際に業務が回るかを見ます。
見るべきポイントは、
- 業務フロー
- 使いやすさ
- 必須機能
- 例外処理
- 受入テスト
- マニュアル
- 運用ルール
です。
現場責任者は、実際に使えるかを確認します。
外部IT顧問・支援者
外部IT顧問が入る場合は、発注側の味方として、
- 要件整理
- RFP作成
- 見積比較
- 技術的妥当性確認
- セキュリティ確認
- 契約前チェック
- 受入テスト支援
を行います。
情報担当がいない会社では、外部IT顧問を入れることで、業者との情報格差を埋めやすくなります。
12. まとめ
PMBOKやCompTIA Project+は、資格取得だけのためのものではありません。
システム構築、Web制作、クラウド導入、社内システム刷新など、あらゆるプロジェクトで使える考え方です。
特に情報担当がいない会社では、PMBOKやCompTIA Project+の考え方を少し知っておくだけで、
- 業者に丸投げしにくくなる
- 見積の違いが分かる
- 要件の抜け漏れに気づける
- 追加費用の発生条件を確認できる
- 検収条件を決められる
- 保守や解約で揉めにくくなる
という効果があります。
PMBOKやCompTIA Project+を学ぶ目的は、専門用語を並べることではありません。
大事なのは、システム構築を、
なんとなく業者に頼むもの
から、
目的・範囲・費用・品質・リスクを管理するプロジェクト
として見られるようになることです。
情報担当がいない会社でも、プロジェクト管理の基本を知っていれば、発注側として十分に戦えます。
高度なIT知識がなくても、
要件、スコープ、見積、変更、リスク、検収、保守
を押さえるだけで、システム構築の失敗確率は大きく下がります。
PMBOKは、プロジェクト管理の地図。
CompTIA Project+は、ITプロジェクト管理の基礎トレーニング。
この2つを知っておくことは、情報担当がいない会社にとって、非常に実用的な武器になります。
